有り難き戴き物です♪







人は一人でも生きて行ける。
一人で生まれて来るのだから。
でも、僕達は二人で生まれて来た。
二人で生まれて来た僕は本当に一人でも生きて行けるんだろうか。

「八戒?」
「はい?」
「どうした…?」
「え?何がです?」
「何考えてる?」
「別に何も。」
「そうか。」

嘘。

僕は君の事を考えていた。

花喃。

僕達は二人で生まれて来たね。
二人で生まれて来た僕達は本当に一人でも生きて行けるんだろうか。
うん、そうだね。君は逝ってしまって。
それでも僕は生きている。一人になっても生きている。
喩えこの目が何も映さなくても、この耳が何も聞かなくても。
一人で生きている。





あら、こんな所に来てはダメよ。
あの人が呼んでるわ。聞こえないの?ダメじゃない。
招く手が見えないの?何やってるのよ、もう…。


八戒。

行きなさい。
私の事、気にしてるのね。
でも、ダメよ。
いつまでも囚われていたら、誰も幸せになんてなれないわ。貴方だって解ってるんでしょ?
そろそろ真実に向き合うべきよ。知ってるわ、私だって。貴方がどうしても埋められない心の隙間を抱えてる事ぐらい。でもね、それを哀しみで埋めちゃいけないわ。貴方がいつまでもこんなだと私だって成仏出来ないじゃない。こんな手の掛かる弟が居たら、心配でのんびり出来ないわ。大体、貴方考え過ぎなのよ、いつだって。思い詰めるの悪い癖よ。本当に私の弟なのかしら。イヤね、似てないわ。しっかりしてよ。
別に忘れ去ってくれって言ってるんじゃないのよ?まるっきり思い出して貰えないなんてのも寂しいし、つまらないわ。時々は思い出してよ。でも、囚われていてはダメ。私は貴方の枷になるのなんてまっぴら。そんな風に思われるのも迷惑よ。早くあの人に全て任せて、天上に行くんだから。
そうしたら。
八戒、貴方よりも素敵な人見付けるのよ。私にだって幸せになる権利有るでしょう?
貴方が私に囚われて深い水底に沈んでる限り私も幸せになれないのよ?私、貴方の事縛り付ける気なんかこれっぽっちもないのよ?貴方が勝手に捕らわれているんだわ。勘違いしないでね。
雨になる度に私に縋るのやめてちょうだい。雨が止めば虹だって出るし、葉っぱだってキラキラして綺麗でしょう?そりゃ、夜は無理だけど…。あ、でも空気が洗われて月や星が綺麗に見えるじゃない。
雨が運んでくるのは哀しい事だけじゃないのよ?貴方が望まなかったら何も変わらないわ。

解ってる?
ねえ、八戒。
幸せになってよ。

貴方、生まれ直して来たんじゃない。
泣きながら生まれる赤ん坊みたいに沢山沢山泣いて、生まれ直して来たんじゃない。
私の愛した悟能はもう居ないわ。そうね、天上へ行ったら悟能に逢えるかしら。うん、いい考えね。
そうしたら、私達新しく始まるかもしれないわ。幸せになるのよ。初めて出会ったみたいに自己紹介から始めるの。どこから来たの?貴方誰?私は花喃よ。そんな風に、初恋みたいに始まるのよ。
良い考えだと思わない?だから。貴方もう悟能になっちゃダメよ。悟能は私の物なんだから。

貴方は。

八戒。

貴方はあの人のものなんだから。

あの人と幸せになりなさい。それが私への何よりの手向けだわ。
そして、あの人と二人で私を見送ってちょうだい。約束よ。

解った?
解ったら、早く行きなさい。ここに貴方の居場所はないの。
ほら、呼んでるわ。あの人せっかちみたいだから怒らせない方がいいんじゃない?
私の事で泣くのはもうやめて。重いのよ。貴方の涙は私をこの世に縛り付ける鎖になるのよ。いいこと?
私、貴方の守護霊になる気なんかさらさらないからね?だって、必要ないでしょ?
あんな最強最悪な生臭坊主が貴方の事守ってるんだもの。だから引き留めないで欲しいの。
貴方の手を取るのはもう私じゃないのよ。大切な物が何なのか間違えちゃいけないわ。

そうね、思い出すなら綺麗な想い出だけにしてくれないかしら。あら。でもそうしたらあの人焼き餅焼くわね。ふふっ。その位良いかしら。だって、恋愛に多少の刺激は必要よ。
やだ、変な話になっちゃったわ。
もう。早く行きなさいってば。
いつまでもグズグズしてるなら、こうしてあげる。



「いたた……。」
八戒はベッドから落ちて目が覚めた。
「何してんだよ。」
「はあ…、夢見たんですけどね…。花喃に延々と説教されて最後の最後で突き飛ばされました。」
あまりと言えばあまりな夢の中での花喃の台詞や仕打ちに未だ混乱する頭を軽く振る。
「お前の姉さん……。豪気だな…。」
「はあ…。そうですね、思い切りが良いっていうか…。なんで解るんです?」
「お前が見てた夢な。只の夢じゃねーよ…。俺にトレースしてきやがった…。
 しかも捨てぜりふ付きでな…。」
「元々器用な人だったけど、亡くなってからスキルアップしたのかな…。」
のんびりとした八戒に三蔵は苦虫を噛みつぶしたような顔をした。無理矢理、夢を見させられたのは勿論のこと、その際にえらい言われ様をしたのが気に入らないらしい。
「ったく、今更あんなこた言われる筋合いじゃねーよ…。」
「捨てぜりふって、何言われたんです?僕知りませんよ?」
「お前を突き飛ばした後、にっこり笑ってこう言いやがった。『八戒、泣かせたら承知しないわよvv』
 だと。くそ、僧侶に脅しかけるたあ、いい度胸した魂だ。無理矢理にでも成仏させてやろうかと 思ったぞ。」
「………ぷっ…くっく…あは、あははは〜。」
「何がおかしい。」
躯を折って笑い転げる八戒に三蔵の眉間のしわが深くなる。ようやく呼吸を整えて目尻に浮かんだ涙を拭いながら柔らかな笑みを浮かべた。
「僕、花喃に勝てた試しがないんですよ。」
「…だったら、俺が勝てる訳ねーだろーが。」
「彼女…、僕の事『八戒』って呼んでくれましたね…。そういう事なんですね…。」
ぽつりと呟く声は穏やかだった。
「おい。」
「はい?」
「あんな夢、無理矢理見させられるのはもう二度とごめんだ。」
「じゃあ、僕幸せにならないと♪ でも、一人じゃ無理ですから
 三蔵、手伝ってくれますか?」
「言われるまでもねーよ…。」





暗闇に灯がともる。
月さえも寝静まる闇の中、ポツリ そこに確かな灯がともる。

「暖かいですね…。」
「何がだ?」
「煙草の火ですよ。」
「何を訳わかんねーことを言ってんだ。」
「だって、そこに貴方が居るって証じゃないですか…。」


一人でも僕は生きて行けるけど、貴方とならば人生は遙かに違う。

もう、一人じゃない。







―了―
「Paradice cafe」(閉鎖)様にて20000hitのキリ番を踏んだ時のリクエスト品。
内容は中島みゆき様の『誕生』に合わせて、でした。サイト名からしてファンだと判ったものですから。
なので、そこここに歌詞に用いられているフレーズが使われているんですよ。
花喃姉様まで出演するという、贅沢な一品。
ホンメイ様、本当に有難うございました!



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