有り難き頂き物です♪







貴方 ハ コノ 光 ノ 欠片

月が、窓の外で輝いていた。満月。
白い月光が音もなく地上に降り注ぎ、そして自らの身を照らし出すのを、八戒は薄暗い部屋の窓辺に佇んだまま、静かに受け止めていた。
久方振りの宿である。
一応旅路を急ぐ身としては、太陽が空に輝いているうちは出来るだけ先に進んでおきたい。そうすると自然、陽のおちた時には周囲に人気が全くないということもありえるわけで。運の悪いことに、ここ3,4日は野宿が続いていたのだ。
食料も尽きかけた今日、めでたくもありがたいことに、この街にたどり着くことが出来た。しかし、生憎と宿の数は少なく、仕方なしのツイン二つとなり。誰が誰と一緒の部屋になるのかを散々口論し―――正確には、約2名だけだが―――キレた三蔵の銃声が宿に響き渡り、今に至る。
(無闇やたらと発砲しないでほしいんですけどねぇ・・・)
どうせあたらない―――あてやしないのだから弾の無駄だろう、と論点のずれたことを考えてみる。
当然のことながら、八戒の同室はその弾の無駄も甚だしい最高僧様である。―――不本意ながら。

「おい」
不機嫌な声音に八戒は我に返った。つけられた電気に軽く目を細めながら、窓辺で振り返る。
「あれ?もう出ちゃったんですか?お風呂」
「猿がうるさくてな」
眺めの金髪からしたたる雫はそのままに、三蔵は煙草に火をつけた。不機嫌を隠そうともしないその仕草に、八戒は軽く微笑んだ。
つい15分ほど前、大浴場があると騒いでいた悟空が、嫌がる三蔵を半ば引きずるように何とか連れて行ったのだが、それもどうやら無駄な努力に終ったらしい。三蔵の様子を見るに、水気を取るのも惜しんで出てきたようだ。ぽたぽたと落ちる雫が法衣を濡らす。いつもより着崩した襟元からのぞく白い首筋がやけに眩しくて、八戒は気付かれないようにそっと目をそらした。
「八戒」
低い声。名を呼ぶその声に心臓がはねた。無言のうちに顔を向ければ、煙草を揉み消した紫暗の双眸がきつく八戒を見据えていて。射抜くように真っ直ぐなその眼差しに小さく痛む心臓を、無意識のうちにおさえていた。
「三蔵・・・」
「何故俺から目をそらす」
それは確信じみた問い。気付かれていたのか、と心の内で八戒は自らを嘲笑った。
ここ数日、わざとジープのスピードを調節して野宿を続けていたことや。
できるだけ三蔵と一緒にいないよう、努めていたことまで。
何もかもを見通して、今日はまだ先に進めそうだったのに宿を取ると言ったのか。
ただ、この問いを八戒に言うためだけに。
「―――眩しくて」
諦めたように肩の力を抜いて、ため息とともに吐き出す。
一番言いたくなくて、けれど一番言いたい相手に、八戒は力なく微笑んだ。
「貴方のことが眩しくて、見ていられなかったんです」
例えばこの満月のように。
白い月光は夜の静けさすら破って全天を照らし。それは瞬く星々の命ある光までもかき消して。けれど、無言で眠りを守るかのようにひっそりと輝く。
満月は三蔵に似ていると八戒はいつも思う。
「よくわからんが」
二本目のマルボロに火をつけ、三蔵は八戒を見遣った。
「それは俺が邪魔だってことか?」
「違います!」
思わず叫んで、次の瞬間、しまったと内心で後悔した。
これでは誘導尋問だ。全てを言わなくてはならなくなってしまうではないか。
八戒は一度目を伏せ、大きくため息をついた。
もう隠せない。ここまで言ってしまったなら、もう。
「―――僕は罪人です。名前が変わっても、それは変わりません。その罪はいつもこの心にあるんです。いくら洗い流しても、これだけは消えない」
幾つもの咎なき命を、この手で奪った。認められるはずのない想いに身を焦がして。
「けれど僕はそれでももう構わないんです。そう思わせてくれたのは、三蔵―――貴方です」
三蔵が軽く目を見開いた。苦い笑いを八戒が浮かべるのを無言で見つめている。
「眩しいといったのはそういうことです。貴方は罪という名の闇から僕を引き上げてくれた光、そのものなんです」
闇の中を手探りで進んでいた自分を。見かけだけの底なし沼にはまって足掻いていた自分を、本当は自分で立てるのだと教えてくれた。光の手。闇が光に焦がれるのにも似て、この心が亡くした面影以外の人に向けられはじめたのはいつのことだろう?
「貴方が、好きです」
ひっそりと。呟きのように小さく、けれどはっきりと告げられた台詞に、三蔵の動きが止まった。煙草を揉み消す手が途中で止まるのを、八戒は自嘲の笑みを浮かべたまま見ていた。
「言うつもりはなかったんです。すみません。気付かれないようにしていたんですけど、だめですね。態度に出ちゃって・・・」
「ちょっと待て」
三蔵に背を向けて窓の方を向く八戒の言葉を、三蔵は強く遮った。不思議そうに振り返る八戒に、眉を顰める。
「なんで謝るんだ?別にお前が謝ることじゃねぇだろ」
「え?でも、だって三蔵。―――迷惑でしょう?」
他人に感情を向けられるのを嫌う人だから、気付かれないようにしていた。
自分の想いは、悟空が彼を慕うような思慕とは違う。もっと身を焦がす、欲望と重なった恋情。
「誰が、迷惑だと言った?」
「え?でも・・・」
戸惑うように言いよどむ声は、鋭い眼差しに制された。照れたようにそらされる、その視線。
「別に――迷惑じゃない」
呟くように小さく。けれど何者にも邪魔されないこの部屋では、それが何よりも確かな答えいなって。
「じゃあ、三蔵」
まだ微かに怯える心をなだめて、八戒は三蔵に歩み寄った。拒絶されることを恐れた手が震えるのを、勇気を振り絞って、その頬に触れる。
見上げる紫暗。アメジストよりも深く、夕暮れ時の薄闇よりも透明な。射抜くように鋭い、けれど誰よりも優しいその眼差しを、自分のもとへと引き留めたくて。
「―――貴方を、僕にください」
(その体と、心の一部を)
この想いの“証”として。

ゆっくりと躊躇うように触れる唇と唇。そっと伏せられた紫暗に、八戒は静かに微笑んだ。繊細な硝子細工を扱うよりも優しく、その細い腰を引き寄せる。
何度も何度も角度を変えて口づけを交わし、吐息とともに想いを伝えた。絡み合う指先と舌に熱が上がり、うっすらと開かれた紫暗の瞳が潤んで月光に光る。
いつも険のある眼差しは、誘うように甘く八戒を見上げ、あいた方の手がしがみつくように背にまわされた。
「あ・・ふ・・っ」
甘い刺激を繰り返し、やがて唇から喘ぎばかりを漏らす頃になって、ようやく八戒は唇を離した。焦れたように立てる爪の痛みにわずかに顔をしかめ、だがそれすらも快楽の波となって押し寄せてくる。あまり人目に触れることのない首筋を舌でなぞり、綺麗に浮き出た鎖骨に歯をたてると、しなやかな肢体がびくりと震えた。
「―――怖いですか?」
上目遣いに見上げると、まるで子供のように三蔵は首を横に振った。金糸の髪が月光に光り、さらりと流れる。ほのかに色づいた肌に煌く金色が映え、神聖なほどに美しかった。
「綺麗ですね」
素直に漏れた賛辞に、三蔵は意味がわからず眉を顰めた。荒い息を吐く唇にかすめるような口づけを落とし、耳元で囁く。
「光りの欠片みたいです。―――貴方が」
「八・・戒・・・っ!」
抗議するように名を呼ぶ声も、今は甘くて。更に何か言う前に、八戒は胸の果実へと舌を這わせた。ぷくりと立ち上がったそれを舌先で弄り、軽く噛み付く。その間にも手は法衣の裾を割り、内股へと這っていく。今まで感じたことのない快感に怯えるように、三蔵は八戒にしがみついた。力が抜けそうになる足に、八戒の冷えた手が快楽を煽り立てる。
「あ・・八戒・・!」
「三蔵―――」
交わるのは互いの想いと甘い声。限界を伝えようと呟かれた己の名に、八戒は小さく微笑んだ。ただ願うように、祈るように―――囁く。
「愛しています。―――三蔵」
一際高い声が、部屋に響いた。

貴方はこの月の欠片。
 鋭く 優しく この身を包んで。

   そして この手を離さないで。








―了―
「南極探検 しらせ号」(閉鎖)様にてキリ番を踏んだ時のリクエスト品。
リク内容は、『83で馴れ初め』・・・といいつつ『お初♪』も要求するという(苦笑)。
いえ本当にこんな美しい文章をいただけるとは思いませんで、その後はストーカーの如く何度もメールを送っていた記憶が(当時はweb拍手なんてなかったんですもの;)。
しかも筆者様が絶滅危惧種(笑)な838ストだったという点に於いても、香月のツボのど真ん中でして(^_^;)
38でのリクエスト品もあるので、宜しければそちらもご覧下さいませ。。



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