目を開けたのはこれで何度目だろうか。
暗闇の中で、時を刻む秒針の音だけが耳に響いている。
紫暗の瞳が動き、備え付けの時計に布団の中から手を伸ばして時刻を確認すると、3の数字の下のところで長針と短針が仲良く重なりあっている。
久しぶりに個室が取れて、一人の時間を楽しみながら布団へ入ったのだが、いつまで経っても寝付くことが出来ずにいた。
何度も寝返りを打っては目を開けて時計へと手を伸ばす。その繰り返し。
だが、いい加減その繰り返しにも飽きて、三蔵はベッドから身体を起こした。
春が近いとはいえ、夜の空気はまだ肌に冷たい。布団に入る直前に消した暖房も、とっくに効果をなくしていた。
薄い寝間着の上に無造作に法衣を羽織ると、部屋を出た。
廊下続きで4人の部屋が並んでいる。
三蔵の部屋から悟空、悟浄、八戒の順だ。
三蔵は静かに2つの部屋の前を通り過ぎて、八戒の部屋の前で足を止めた。
躊躇いながら小さくノックする。
すると、しんと静まり返った廊下に意外と大きくノック音が響いたのに、三蔵は内心首をすくめて辺りを見渡した。
こんな姿を悟浄になど見られでもしたら、後々までからかわれるのは目に見えている。だが、なんの物音もしない。それは八戒の部屋からも同じだった。
(もう寝てるか・・・)
失望の影が三蔵の顔を覆ったが、取り合えずはと、三蔵はドアノブに手をかけた。
ノブを回すと、すんなりとドアは開いた。
八戒にしては珍しい。いつも寝るときは鍵を掛けているはずなのに。
部屋の中は廊下と違わず、しんと静まり返っている。
ドアを閉めて、鍵も閉める。
手の中でカチリと鍵の閉まる音がすると、静かにベッドサイドへと足を進めた。
ベッドの上には、目を閉じて気持ち良さそうに八戒が眠っている。
「八戒・・・」
小さく名前を呼んでみる。
反応は返ってこない。
眠りの淵に身を任せているようだった。
「八戒・・・」
もう一度名前を呼んでみる。
結果は同じ。
三蔵の指が八戒の頬を滑り髪を掬い取る。
いつも、自分が先に眠りの誘いにのって瞳を閉じてしまうので、こんなに長く八戒の寝顔を見たのは初めてかもしれない。
翡翠の瞳で見つめられると、何もかもが崩れていく。自分が自分でなくなってしまう。
だが、いつも躰の自由を奪ってしまう八戒の瞳も、口も、そして身体も、今はベッドの上で静かに安息の時を楽しんでいる。
普段はない、あどけない寝顔に、三蔵はくすりと笑いかけると、そっと額へと口唇を落とした。
夜の冷気に触れた額の冷たい感触が、三蔵の口唇に移る。
と、
「どうせなら、こっちの方が良かったんですけどね」
「は、八戒・・・!」
耳元で聞こえる八戒の声に驚いて三蔵が顔を上げると、あの翡翠の瞳とぶつかった。
布団から出た指が口唇の上で止まっているのをみると、"こっち"というのは、どうやら口唇のことらしい。
「いつから起きていたんだ?」
内心の動揺を隠し切れず三蔵が問うと、にっこりと笑顔をつくって八戒がベッドの上で身体を起こした。
「今、何時です?」
「3時半くらいだろ」
「眠れないんですか?」
「別に・・・」
答えながら、三蔵の視線は宙を泳いでいた。自分の最初の質問をはぐらかされたのも、今の三蔵には気づく余裕はない。
三蔵自身、何を目的として八戒の部屋にきたのかはわからない。眠れなくて、自分の部屋を出て、気づけば八戒の部屋に入って八戒の額にキスを落としていたのだ。
八戒の顔を見れば眠れると思ったから・・・。
「邪魔したな・・・」
八戒の顔も見たし、目的は果たした。勝手に結論付けてそう言うと、三蔵は踵を返してベッドから離れようとした。
だが、そんな三蔵の法衣の裾を八戒の手が掴んで、その場を離れることを許さなかった。
強く法衣を引かれて、三蔵はベッドの・・・八戒の上へ腰を落とす羽目になった。
たちまち八戒の腕が三蔵の身体を包み、身の自由を奪ってしまう。
「離せっ!」
真夜中に大声を出すわけにはいかない。それでなくても隣の部屋には悟空ならともかく、悟浄が寝ているのだ。極力、小さな声で三蔵は八戒に怒鳴った。
「何故です?先にキスしてきて、それはないでしょう」
言いながら、首筋へとキスを落としていく。
「それに───」
金糸の髪から頬へ、そして顎へと長い指を滑らせると、つっと顎を持ち上げて自分へと向かせる。
「鍵をかけたのはどなたですか?」
「貴様・・・」
意地の悪い笑みを浮かべて、三蔵の口唇へ同じものを重ねた。
「誘ったのは、貴方ですからねv」
尖った口唇をついばむように、角度を変えて深さを変えて、何度も何度も短いキスを落としていく。三蔵も、それを素直に受け取って、ときたま自分からもしかけてみたり───。
「貴方がキスをしてくれるのを待っていたんですよ」
「じゃぁ・・・」
「えぇ。貴方がドアをノックしたときから、起きてましたよ」
「何故、鍵をかけてなかった?」
「なんとなく、貴方が来ると思ってましたから」
キスの合間に交わされる言葉。
翡翠の瞳が三蔵のアメジストの瞳を捉える。一度捉えられたら、逃れる術を三蔵は持っていない。
「全て貴様の手の中か・・・」
諦めたようにため息を漏らすと、最後は首を伸ばして自分からキスを仕掛けた。
長い長いキス。
どちらからともなく口唇を開いて舌を絡める。根元から吸い上げられると、躰の力が抜けて、八戒に預ける形になってしまう。仕掛けておいて、結局苦しくなって離してしまうのは自分の方だ。
口唇を離すと、後ろから抱いている八戒は三蔵の耳たぶへと口唇を宛がう目標を変えた。
「ン・・・」
眉根を寄せて三蔵がくぐもった声を出す。
2度3度、耳たぶを甘噛みして、八戒は手を法衣と寝間着の間に忍ばせた。
薄い布越しに、胸の突起に触れると、三蔵の押し殺したような声に甘い果汁がブレンドされる。
苺のような甘酸っぱい、そんな声。いつ聴いても、キレイだと思う。そして、もっと聴きたくてついつい苛めてしまう。
「ぁ・・・や、だ・・・。ンぁ・・・ぁっ・・・」
敏感な部分を布越しに擦られて、耐え切れなくて無意識に八戒の腕を退かそうとするも、八戒の手は止まることはない。
慣れた手つきで、寝間着がわりのシャツのボタンをはずしていく。
けれど、全部ははずさない。
肩と胸が外気に触れるところでまでシャツを脱がせると、引き締まった胸を飾る2つの突起が、淡いピンク色を纏ってつんっと上を向いて八戒を迎えている。
浮き上がる鎖骨に舌を這わせながら、今度は直に胸の飾りで遊びだす。
触れるだけかと思うと、弾いてみたり。つまんでは、ときたま爪を立てて苛めてみたり。
その度に、三蔵の鼻に抜けるような甘ったるい声が八戒の聴覚を心地良く刺激してくれる。
「もうココ、こんなになってますよ」
いつの間にか下腹部に片手を忍ばせていた八戒が、湿り気を帯びた下着の上からやんわりと三蔵自身を包み込んだ。
「や・・・言う、な・・・。ぁは、ン・・・」
羞恥に、火照って桜色に染まっている顔をさらに赤く染め上げる。
そんな三蔵に、にっこりと微笑みかけ、法衣の腰紐を解いて前を広げると
「ちょっと腰を浮かせてください」
八戒のお願いに、三蔵は素直に従った。
抜けそうな腰をあげて、下着ごとズボンを脱がせて貰う。
理性の端で感じる屈辱感も、他の感情がそれを覆い隠してしまって表へ出ることはなかった。
後ろから三蔵を抱きかかえているため、手の届く範囲に限界がある。その限界まで脱がせると、そのまま内腿を伝って足の付け根まで移動する。
その指の動きに、三蔵は形のいい眉を顰めて小さな吐息を漏らした。
上体を起こして八戒に寄りかかっているため、しとどに濡れそぼった三蔵のソレはいやがおうにも視界に映る。
あさましい自分に恥ずかしくなって、思わず顔を背けてしまった。
自分に見えていて、八戒に見えていないはずがない。
「どうしました?」
「見るな・・・」
今にも消えそうなか細い声。普段なら決して聴くことは叶わないだろう。自分だけが知っている声・・・。
今まで何度も躰を重ねてきて今更とは思うが、どうしようもない感情はあるものだ。
恥じ入る三蔵の髪をそっと撫でると、両の手でソレを包んで優しく愛撫しだす。
「ぁっ・・・!ン・・・ぁあ・・・や・・・。は、かい・・・ぁあっ!」
一番敏感な先の部分を擦られて、三蔵は一気に頂点に達し、白濁の蜜を八戒の手の中へと迸らせた。
力なくぐったりと寄りかかる三蔵の躰をずらして、ベッドの上へと横たえらせると、紅いチャクラへとキスをする。次に耳たぶ、ふっくらと膨らんだ口唇に、そして首筋、鎖骨、両胸・・・。次々に所有者の痕を残していき、最後に蜜を纏ったままの三蔵自身にキスを落とした。
キスの嵐に、三蔵の躰に再び火が点火され、自身を口に含まれて、舌と指で愛撫されると、たちまち萎えたソレに熱が戻ってくる。
口の中で育っていく三蔵を感じながら、八戒はその根元を押さえて2度目の解放を封じた。
抗議の声があがるのを無視して指をしゃぶり唾液を絡ませると、三蔵の秘部へと宛がった。
細いが節くれだった指の侵入に最初は腰を引かせるも、すでにやわらかくなっているソコは、すんなりと指の侵入を許した。
中で蠢く八戒の指に合わせて、三蔵の腰が揺らめく。
根元を押さえられている三蔵は、中でぶつかり合う感情を放出することもできず、唯一の捌け口である口からオクターブ高い喘ぎを漏らしている。
「や・・・もぅ・・・。も・・・、はっか・・・」
ろれつの回らない口から、一生懸命に訴えると、八戒は根元を押さえていた手を離し、中で蠢く指をゆっくりと抜き出した。
「今日はゆっくり寝れそうですねv」
涙に濡れる三蔵の顔ににっこりと微笑んで、およそこの場面に的確でない言葉を投げると、八戒はすでに服の下で膨れ上がっている自分自身を引き出し、三蔵の両足を持ってその間へと静かに埋め込んだ。
「ンく・・・ぁ・・・。いっ!」
腰に響く痛みに、思わず三蔵の腕が八戒の首に伸びた。
始めの内は悲鳴に似た声をあげるも、何度か出入りを繰り返しているうちに、甘さを取り戻し、腰の動きも大きく、早くなっていく。
浅いところで遊んで奥まで深く貫くと、面白いほどに三蔵の背中が跳ね上がる。
ひっきりなしに上がる嬌声を口唇で封じると、繋がっている部分が余計に熱く感じてくる。
「ぁ・・・も・・・。ぁああ・・・、は、か・・・」
「ぁは・・・くっ・・・。さん、ぞ・・・」
八戒の声から余裕がなくなり、限界が近いことを互いに悟る。
肌のぶつかり合う音と、ぐちゅぐちゅといやらしい音が部屋に響く中、互いの名前を呼び合い、同時に想いをとぼした───。
次の日の朝、目覚めると情事の後のつんっとした匂いが鼻についた。
最初のころは辟易していたこの匂いだが、いつの間にか気にならないようになってしまっている。
上を見上げると、八戒の顔が覗ける。
まだ寝ているのだろうか。
いや、寝ているふりをしているだけかもしれない。
お互い、裸で抱き合って眠って、目覚めるのは八戒の腕の中。
全てが当たり前になっていた。
昨夜眠れなかったのも、当たり前のものが近くになかったからだろうか。
それを考えて、ふと、不安が胸をよぎった。
この旅が終わって全てが元に戻ったら、これも元に戻ってしまうのだろうか。
自分と八戒の距離も全て・・・。
考えて、怖くなって、三蔵は八戒の胸に顔を埋めた。すると、
「大丈夫ですよ」
頭上から八戒の声が降りてきた。
何が大丈夫なのか。
自分の心の中を見透かしたような八戒の言葉に驚いて再び顔を上げると、いつもの八戒の笑顔がそこにあった。
「不安がることなんて、何もありませんよ」
「八戒・・・」
なんの根拠もない言葉だが、八戒の口から聴くと真実の様に思えてしまう。
その言葉を信じる根拠も、三蔵にはない。
「信じるものは救われるっていいますからねv」
何か違うだろ。心の中でそう突っ込みながら、三蔵は再び八戒の胸へと顔を埋めて瞳を閉じた。
「僕はずっと、貴方のことを愛しつづけますよ」
金糸で創られた髪を優しく撫でながら、誓いの言葉を三蔵の胸へと刻んでいく。
そして、『I do』の代わりに三蔵は答える。
『当たり前だ』と────。
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―了―
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「Cafe Babymilk」(閉鎖)様(正確には旧サイト)にてキリ番を踏んだ時のリクエスト品♪
リク内容は、『寝ている八戒さんへのキス♪)』・・・八戒さんがタヌキ寝入りなのは38も83も共通という(^_^;)。
額へのキスって神聖な雰囲気があって大好きなので、舞い上がるほど嬉しかったです♪
黒耀様、本当に有難うございました! |

「懐かしい!」という方も、「こんなサイトあったんだ」という方も、読んだらぽちっと↑
同志の輪を広げましょう♪ |