有り難き戴き物です♪







野宿が暫く続いて漸く辿り着いた街。
無事に宿も取れて今夜は何事もなく休めるという段になって
やはり、事は起きた。
宿の発電の不具合で
電気が使えなくなってしまったのだ。
宿の主人からは電灯代わりにシェード付きのキャンドルが渡されて。
電気の供給が不安定なこの地帯では、停電はよくある事なので
停電対策にキャンドルを常備しているのだという。

人工の灯りに慣れた身には、キャンドルの柔らかな灯りはとても温かくて。
同室相手が貴方であっても、自然に肩の力が抜ける。


揺れるキャンドルの向こう
貴方の髪が煌いている。
真昼の光の下で程眩しくはなく感じられるのは
この闇の中、仄かに灯るキャンドルのせいだろうか。
まるでこの世に二人っきりになってしまったかの様に
静かな夜を焔が仄かに照らし出す。

いつもは眩しすぎて直視できないのに
貴方の傍であるのにこうして力むことなくいられるのも
この柔らかなキャンドルの灯りの下でだから。
温かく穏やかに揺らめく焔の齎す空気は
貴方の傍にいても楽に息をさせてくれる。
日の光の下であれば貴方の存在は
僕には眩しすぎて、苛烈過ぎて
呼吸をするのも喉が焼けそうで。
傍にいるだけでも全身が焼き切れてしまいそうで。
貴方は、光そのものだから。


心は何時も貴方に向かっているのだけれど。


他人に触れられる事も
“そういう”好意を寄せられる事も毛嫌いする貴方だから。
僕のこの想いが露呈してしまうのが怖い。
何よりも貴方のその瞳に蔑みの色を浮かべられるのが。
だから貴方の傍にいられるのは、せいぜいジープの中位で。
運転席と助手席。
それが貴方と僕の定番の距離。
その距離以上縮まることは適わない。

実の姉を愛したくせに
実の姉だから愛したエゴの塊のくせに
貴方だけは絶対不可侵の領域。
触れる事もまともに見つめる事すらもできない。
貴方の背中を見つめられるのが僕の精一杯。


穢れたこの身の分際では、秘かに想いを寄せるのさえ許されない事だから。

けれどこの柔らかな灯りの下では
どこか現実離れしたふわふわとした感覚で。
貴方の傍に寄る事も
貴方に触れる事も
許されるのではないかと勘違いしてしまう。

今だって、貴方が僕の傍に来たのは
僕の目の前にあるキャンドルから煙草の火を移す為だけに過ぎないのに。
貴方の目を伏せた面を
こんなに間近に見つめる事が出来ただけで
僕の心は勝手に慄えている。
心臓の鼓動が煩く跳ねる。
その音が聞こえてしまうのではないかと
背中を冷やりとしたものが流れる。

仄暗い中でよかった。
でなければ敏い貴方に僕の動揺が知れてしまう

仄暗い中でだからこそ
上気する頬を止められなかったから。

安堵の息をそっと吐いた時
煙草に火を移しながらふと見上げてきた貴方と視線が合った。
こくり…と喉を鳴らしてしまったのは失態だ。
けれど揺れるキャンドル越しに見えた貴方の瞳と
こんなに間近で視線を躱したのは初めてで。
固まったまま顔を逸らす事もできず

紫暗の瞳と視線が静かに絡み合う。


ジジ…
風が焔を揺らす音で我に返った。
キャンドルの残りが心許なくなって
このままではもうすぐ闇に還ってしまう。
それが何だかどうしても惜しくて
キャンドルの代わりになる物はないかと頭を巡らせる。


ふと貴方の背後の揺れるカーテンが目に入る。
カーテンの隙間から差し込む月の光。
今宵は月の光が明るいから
カーテンを開ければ、キャンドルの灯までは適わなくとも
二人の距離を近く感じられそうな柔らかな光を得られるだろう。
僕はカーテンを開ける為に立ち上がっていた。

今宵だけでももう少しだけ、寄り添えた気分を味わっていたくて。
朝になれば何事もなかった様に消えてしまう
泡沫の一時であっても。


「蝋燭が切れそうです。今日は月が明るいから、月の光を取り込むのでも代わりになりそうですから」
そう言って窓辺まで来てはたと思いついた。
(今少しこのままで時間を過ごしたいと思っているのは僕だけかもしれない…)
だから
「それとも…もう休みますか?」
切なさを隠しながら振り向いたら
思いがけず貴方の姿がすぐ傍にあって。




気がつけば貴方に腕を取られていた。






発電の不具合とかで、宿の電気が使えない。
渡されたキャンドルの揺らめく焔とシェードが
何の変哲もない宿の一室を幻想的に塗り変える。
現世を離れ二人っきりの様な静寂を生む。
おまけに室内にはやけに艶やかな空気が醸し出されている。
その発生源は間違いなく今夜の同室の男で。

焔の揺らめきがお前の白い肌を闇の中で照らし出す。
仄かな灯りの向こうに見えるお前の湖水の瞳は
直視しないのに何故かやけに揺らめいて見える。
二人きりの静かな室内で
お前の吐息にさえ熱が籠っている気配がする。
お前の細く白い指先が
闇の中に妖しく浮かび上がる。

まるで俺を誘う様に。

何時も縮められないお前との距離。
河童やサルには気軽に触れさせるくせに
俺が近づくだけで躰を強張らせるお前。
時にはするりと逃げる様に身を躱して距離を取る。
河童やサルには向ける自然な笑顔が
俺に向けられる時には、どこか作り物めいた笑顔に変わる。
何時も俺を立てる体を取りながら
実のところは何時も一線を画しているお前。
上辺は何でもない振りをしながら何時もそうだ。
それがもどかしくてイラついてむかついて
けれどどうすればいいのか
どうしたいのかさえわからないまま過ぎる日々。

そうまでしてお前は何を隠している?
そうまでしてお前は何から逃げようとしている?

そして俺は一体どうしたいのだろう?


ジープで隣同士でいる時だけが
自然にいられる距離で
それ以上にもそれ以下にもならない微妙な距離感は
そのまま俺とお前の距離を示している。

見えない壁が俺とお前とを隔てているから。
見えない壁をお前が作り出しているから。


けれど今宵この仄かな灯りの中
闇に浮かび上がるお前は
妖しい艶やかさを醸し出して
何時もの距離よりずっと近くにある。
キャンドルの灯りがお前の頑なな心を柔らかく包み込んでいる。


このまま抱き寄せればお前はそのまま素直に身を任せてくれるだろうか。

ライターのオイルが切れた振りをして
煙草に火を移す体を装い、キャンドルの目の前にいるお前に近寄って
お前の顔を間近で見上げれば

お前の湖水の瞳が揺れた。
お前の喉がこくりと鳴った。
お前の頬が微かに染まった。

そう感じたのは俺の勘違いではないだろう?


互いの視線を絡ませ合って
一瞬にも永遠にも思えた時間が過ぎた後
焔の揺れる音で我に返ったお前が
俺の背後のカーテンを開けに席を立った。 
「蝋燭が切れそうです。今日は月が明るいから、月の光を取り込むのでも代わりになりそうですから」
そう言って窓辺まで行ってカーテンを開けかけて止まった腕。
「それとも…もう休みますか?」
その声がその背中がやけに頼りなく感じた。
差し込む月の光がお前を包み込む。
そのままお前が
まるで月の光に溶けて消えてしまいそうな儚さを感じて




気付けばお前の腕を掴んでいた。






「さ…ぞ?」
掠れた声で八戒が三蔵を呼ぶ。
けれど返事の代わりに、八戒は三蔵に抱きしめられていた。
「ッ…」
あまりの驚きに暫し固まって
けれど我に返って慌てて八戒が身を捩れば
逃さないとでも言う様に三蔵が抱きしめる力は一層強まって。
それ以上抗う事は適わず、八戒はそのまま身を委ねた。

いつしかキャンドルの焔は消えて
闇の中、月の光だけが柔らかく二人を包む。
闇の中、言葉もなくただ寄り添う影が浮かぶ。
月だけが、優しく二人を照らし出す。
抱きしめられたまま、八戒の手も自然に三蔵を抱きしめかえしていた。


トクン…トクン…
心音が重なる。
二人の心もゆっくりと重なっていく様で。
気負いも迷いも忘れて八戒は身を委ねる。
三蔵に対して纏っていた鎧が剥がれ落ちていくような感覚を覚える。
戸惑いも躊躇いも、何もかもが月の光に溶けていく。

「…八戒」
三蔵の間近で聞くビロードの様な声が頭の中に響いて
甘やかな感情が八戒の中に拡がって行く。
「俺は…お前を…」



それは、始まりを告げる声。








―了―
「Infinity-∞-」様より、当サイト2周年記念として戴いたお作品♪
こちらからのリク提示は「公式ツイッターより、両片想いだった38がキャンドルのムーディーな灯りに照らされ、互いの気持ちを伝える」・・・2014年5〜7月の期間限定最遊記アカウント内の話を38に置き換えていただきました♪
なんかもう、棚ボタ以外の何物でもないですね(^_^;)。
尚、この続きの大人仕様ssがございますが、本家様宅で隠しページ上に上げられているので、此方でも同様の措置を取らせていただいております。この頁にリンクを貼っておりますので、頑張ってお探し下さい。
翠月様、本当に有り難うございました!



「常連です!」という方も、「自分行動範囲狭いモンで;」という方も、読んだらぽちっと↑
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背景写真素材提供:足成