| 団体行動をしていれば、自然とルールが出来る。 そう厳密なものではなく、所謂『お約束』的な決まり事…。 複数で行動を共にする場合のマナーに近い物。 三蔵一行にも、幾つかそんな決まり事があった。 例えば『集合時間の厳守』その他にも『喫煙は灰皿のある場所で』などごく当たり前の、 常識的な物が殆どで、守れなかった場合は各種罰ゲームが待っている。 明文化されている訳ではないが、殆どのルールを提案したのが、 八戒だと言うこともあり、全員そのルールに従っていた。 別に八戒だけにルールを決める権利がある訳ではない。 誰でも『今後はこうしよう』と主張することは出来る。 ただ『むやみに発砲するな』とか『ハリセン禁止』などの主張は有名無実と化していた。 そして唯我独尊を地で行く三蔵だったが、意外にも余り自己主張はしなかった。 自分のルールを押し付けることはしない代わりに、 納得行かないルールには従わない、というスタンスをとっていた。 旅に出て暫くした頃、そんな三蔵が唯一ある事をルールとして定めたいと、強く主張した。 曰く『八戒は大浴場の使用を禁止』 これを聞いた悟浄と悟空は顔を見合わせ、小声で話した。 「…要するに、八戒のヌードを誰にも見せたくないって事?」 「…あぁ、それに自分も八戒と一緒に風呂に入ったら、それこそ大欲情って事だな…」 三蔵が八戒に恋着しているのは、周知の事実で八戒本人以外にはお見通しだった。 しかし三蔵の思いを知らない八戒は、困ったように言った。 「広いお風呂があれば僕も入りたいんですけど?」 「駄目だ。どうしてもお前が大浴場に入るなら、俺が風呂に入ってる奴を全員叩き出してからだ…。 勿論お前の入浴中は、俺が入り口でだれも入らないように見張る!」 八戒は三蔵の主張を聞き、大きな溜息を付き言った。 「分かりました。そんな強制貸し切りのお風呂は嫌です…」 こうして一応八戒は三蔵の主張を受け入れた。 しかし内心は…。 (大浴場がある宿なんて滅多にないし、三蔵が気が付かない内に、お風呂に入っちゃえば良い…) そう思っていた。 けれどそんな八戒の思惑は三蔵にはお見通しだった。 その後大浴場がある宿に泊まった時三蔵は、八戒から一瞬も目を離さず、 八戒の大浴場の入浴を阻止した。 大浴場がある宿は、四人で一部屋を使う場合が普通なので、 八戒は三蔵の監視から逃れられない。 こうして偶に大浴場のある宿に宿泊しても八戒が大浴場を利用できる事はなかった。 そんなある時、ジープが走れないような山道を己の足で歩き、 その疲れを癒しきれない野宿の日々が何日も続いた。一行は疲れ果て、山間の温泉宿にたどり着いた。 「うぉ〜!温泉!」 「マトモな飯!マトモな寝床!」 手を取り合って喜びぶ悟浄と悟空。 「はい、四名様ですね」 宿の従業員は、にこやかにそう言いながら、四つの鍵を差し出した。 「…一人部屋なんですか?」 この手の温泉旅館で、個室は珍しいと宿泊手続きしていた八戒は尋ねた。 「えぇ。ウチは一人でいらっしゃるお客さんが多いので…。 一人で湯治に来て、長期お泊まり頂いて…。 お部屋は少し狭いですが、各部屋にキッチンも付いていますよ」 『温泉宿』『一人部屋』この言葉を聞いた八戒は、表情には出さず、心で喝采を叫んだ。 (広い温泉に入れる!) 八戒は三蔵の目を盗んで、大浴場に入る決心をした。 一応三蔵にバレると煩いので、早朝の人気のない時間を狙った。 脱衣所の棚は一つが使用中。 (貸し切りじゃないけど、空いてますね…) 八戒は上機嫌に浴室に入った。 そしてそこで土左衛門を発見した。 見慣れた三蔵の姿が、広い湯船に浮いていた。 八戒は三蔵に近寄り、様子を確認した。 「…三蔵大丈夫ですか?」 「…………八戒…?」 脈は少し速いが、呼吸は正常。意識混濁。呼気からアルコール臭。 (酔っぱらって、逆上せているだけですね…) 心配するような事はないと判断した八戒は、力任せに三蔵を湯船から引きずり出し、 洗い場の床に転がした。二・三杯洗面器で冷水をかけ、 同じく三蔵が持ち込んだらしい手ぬぐいを、冷水に浸し抜き出しの股間を隠す。 自分の手ぬぐいも、水に漬け三蔵の額に乗せる。 ここまで介抱しても三蔵の意識ははっきりしない。 (まぁ、心配は要らないですよね…) 三蔵を床に放置したまま、八戒は朝風呂を楽しんだ。 八戒自身も少し逆上せるほど、心行くまで朝湯を堪能してから、風呂から上がった。 …最高僧の温泉蒸し(酒蒸し?)はそのまま放置された。 着替えを済ませ、汗も引いた頃八戒は、 ガラスの扉を隔てた浴室で、何かが蠢く気配を感じた。 覗いてみると意識を取り戻した三蔵が、サダコ状態で床を這いながら近寄ってきた。 「三蔵…大丈夫ですか?」 先程一瞬会話した記憶は、覚えていないらしい三蔵は、睨みつけるように八戒を見つめながら言った。 「……お前が何で大浴場にいる?お前は大浴場禁止だ…」 その言葉に八戒は苛立ちを感じた。 「……納得できません。どうしてですか?」 意識は戻ってもまだ、マトモな思考回路は戻っていなかった三蔵は、反射的に言い返した。 「お前の裸は、誰にも見せたくねぇ…」 「どういう意味でしょう?確かに大きな見苦しい傷がありますけど…」 そんな八戒の言葉に三蔵は首を振り言った。 「傷とかそんなことは関係ねぇ、…俺がお前に惚れてるから、お前の裸を誰にも見せたくない…」 「三蔵…」 三蔵のこの告白は、八戒にとって青天の霹靂だった。 成る程そう言う訳で、自分は大浴場の使用を禁止されていたのかと、納得する反面、 最高僧と言う至高の地位についている三蔵が、自分に恋している事実に、軽いパニックを起こした。 そのパニックを沈めたのは他ならぬ三蔵だった。 まだ立ち上がれない様子で、床に座ったままだったが、それなりに強い視線で、先程の問いを繰り返した。 「答えろ…。…お前が何で大浴場にいる?」 その声が余りに真剣だったので、八戒は咄嗟に嘘を付いた。 「……貴方がお部屋にいなかったので、探しに来ました。入浴しに来た訳じゃないですよ…」 八戒の答えを聞いた三蔵は、八戒がキチンと服を着ていることを確認して安堵の息を付くと言った。 「お前が大浴場に入らないように、一晩風呂で見張ってた…。 途中喉が渇いてビールを飲んだら、少し酔った…。湯中りもしたみてぇだ…」 成り行きで告白した事実に気が付いたのか、三蔵の言葉は言い訳じみて、 歯切れが悪かった。どこか気まずそうに、視線も泳いでいる。 そんな三蔵を見ている内に、八戒は冷静さを取り戻した。 子供じみた我が儘でと言うか、つまらない焼き餅で、大浴場の入浴を禁止した三蔵。 (一晩中温泉に浸かって、逆上せてまで…) そんな三蔵の行動が愛おしいと思えた。 (この人は弱い人じゃない。でも目を離すと何をするか分からない人だから…) 自分自身にそう言い聞かせると、ゆっくり立ち上がる三蔵に背を向けて言った。 「部屋に戻ります…」 三蔵としては、成り行きとはいえ、告白してしまった以上は、何らかのリアクションが欲しい。 しかし八戒はいつもと変わらぬ様子でたち去ろうとしていた。 「八戒…」 思わず名前を呼ぶが、後に続く言葉が浮かばない。 そこに派手な足音と共に、悟浄と悟空が現れた。 「あれ?八戒もお風呂?」 「って三蔵さま、フラフラ?どうした?」 そんな二人に曖昧な微笑みだけを残し、八戒は脱衣所を後にした。 直後、ツイッターに八戒の書き込みがUPされたことに悟空が気付いた。 「あっ、八戒だ。……ってこれってどう言うこと?」 八戒がツイッターに書き込んだ内容は、要約すれば以下のような物だった。 ・朝風呂に入りにきた。 ・酩酊して土左衛門状態の三蔵を発見。 ・誰も起きてこないので二度寝をする。 脱衣所に残った三人は、それぞれ自分のスマホ(三蔵はガラケー)と 互いの顔を見比べた。 「三蔵、土左衛門だったの?」 「ってか、今ばっちりここで、顔を合わせたのに『誰ひとり起き出す気配がない』ってどういう意味?」 「……あいつやっぱり風呂に入りにきたのか?」 この八戒のツイッターに寄れば、八戒が風呂に来たとき、三蔵は土左衛門状態で、湯に浸かっていた事になる。 しかし三蔵の記憶では、サダコ状態で床を這っている時に、八戒は現れた。 微妙に空白の時間があることに気付く。 そして悟浄も気にしている、『誰ひとり起き出す気配がない』という現状と矛盾する言葉。 それが先程の告白の答えのような気がした三蔵は、 速攻で服を身につけると、戸惑う悟浄と悟空を放置して、風呂場を後にした。 詳しい事情は分からないながら、薄々事情を察した、悟浄と悟空は互いに顔を見合わせ、確認するように言った。 「えっと…、つまり八戒のこのツイッターって…」 「オフィシャルには、見たまんま…。俺とお前には、邪魔するなって忠告。 三蔵には、すっごく遠回しに一緒に二度寝しましょうってお誘い。ってことかな?」 「………じゃあのんびりお風呂に入ろうか?」 悟浄と悟空は言葉通りのんびり温泉に浸かった。 その後数日、この宿に滞在することになる三蔵一行だった。 |
| ―了―
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| 「D-course」様より、当サイト2周年記念として戴いたお作品♪ リク内容は、「公式ツイッターより、『温泉物語』――朝風呂に入ろうとした八戒さんが土左衛門三蔵様を見付ける辺りを、38風味で」・・・というより、あの内容は38以外の何物でもないでしょうっ(>▽<)。 (補足:公式ツイッター・・・一迅社様による、2014年5/17〜7/25の間の限定アカウント) 朝寝と称した遠回しなお誘い(&お邪魔虫の駆除)が素敵です♪ そして!838を公言している香月の為、この温泉シーンの83バージョンまで書いて下さったのです!→こちら ※「D-course」様は完全なる38サイトであり、こちらの中で83の話題を出すことは厳に謹んでいただきますようお願い致します。 |
「常連です!」という方も「自分行動範囲狭いモンで;」という方も、読んだらぽちっと↑ 同志の輪を広げましょう♪ |
写真素材提供:フリー素材屋Hoshino様