有り難き頂き物です♪





 八戒は、額から頬に、そして唇にそっとくちづけて、それから薄く開いた白い歯並みを割って、柔らかい口腔に舌を忍ばせた。
 キスをするのはこれが初めてではないけれど、くちづける度に三蔵の舌は萎縮したように奥に引き込んでしまい、素直に絡め取らせてはくれない。
 びくりと震えた細い頤を親指の腹で引き下げて、八戒はなおさら深く舌を割り込ませる。
 そっと粘膜をなぞって、縮こまっている舌を誘うように嬲ってやると、ゆっくりと緊張を解いた三蔵が八戒に応え始める。
「…んっ」
 ちゅ、と濡れた音と共に、無意識に漏らしてしまった甘い声が自分のものであることに驚いた三蔵が、咄嗟に唇を離して口元を掌で覆う。
 そんな初々しい反応の全てが、自分しか知らない三蔵の一面であることを実感して、八戒はひどく嬉しかった。
「いいんですよ、気持ち良かったら声出してください」
「ざけんな馬鹿」
 照れ隠しなのだろうが、いかにも三蔵らしい台詞にくすりと笑いを漏らした八戒は、もう一度甘い唇を塞いで、伸ばされた身体に手を這わせる。
 備付けのバスローブをクロゼットから出すのも面倒臭かったらしく、三蔵は湯上がりに法衣を纏っただけの姿だ。
 いつもは黒いインナーで隠されている喉元から鎖骨の窪み辺りまでが、襟の合せから覗いているのが妙に色っぽい。
 法衣の肩を落しさえしなければ、極端に露出の少ない格好を見慣れているだけに、僅かな素肌にも鼓動が跳ね上がるほどの興奮を覚えた。
 腰骨の上で結ばれていた帯を解き、身頃を左右に開くと、ジーンズすら身につけていない裸体が露になる。
 常夜灯とベッドサイドの薄明かりの元で、晒される滑らかに白い肌。
 黄味の少ない肌は、不健康に青白いわけでもなくて、ふんわりと柔らかく白い。
 それでも決して女性的だということではない証拠に、絞り上げられたような腰回りは驚くほど細いけれども、戦闘に必要な筋肉と必要最低限の肉づきを持ち、ストイックに鍛えられている。
 無駄な脂肪も無駄な筋肉も一切ついていない綺麗な身体の線を撫で上げて、八戒は胸元を飾る淡い色の乳嘴を、指先で転がした。
「ん…っ」
「ここ、好きなんですか?」
 絡めていた舌を噛み千切る勢いで奥歯を噛みしめた三蔵の歯の間から、間一髪で自分の舌を救出して、八戒は見る間につんと立ち上がった粒を執拗に追い立てる。
 片方を指先で弄びながら、固く張り詰めたもう片方を唇に挟んで吸い上げれば、三蔵は息を詰めてゆるりと首を振った。
「は…ぁっ」
 八戒だって花喃以外を抱くのは初めてのことだったし、三蔵にいたっては自己処理しか知らないから、誰かと比較することは難しいけれど、三蔵の身体は相当に敏感に造られているらしい。
 キスの最中に舌を噛み千切られて死んだ者の話なんて聴いたことがないけれど、これだけ過剰な反応をされると、その可能性もなくはないだろう。
 既に勃ち上り始めた三蔵に指を伸ばして、やんわりと握ってやる。
 肌の色と同じように色素の薄いそれは、八戒の掌で刺激されて急激に硬度を増した。
「やっ…」
 悲鳴に近い声を上げて、急に胎児のように手足を縮めた三蔵に、驚いたのは八戒の方だ。
 三蔵を握ったままの手を脚の間に挟まれる形で引っ張られたのだから、不安定な体勢を取っていた八戒はがくんとシーツに崩れてしまう。
「ちょっと三蔵、どうしたんですか」
「そんなとこ、触んな」
「何言ってんですか、触らなきゃできないでしょう?」
 先ほどの舌同様に自分の手を奪回した八戒は、まだ横向きに身を縮めている三蔵の背中を撫でて苦笑した。
 どうにも羞恥に対する反応が強すぎる。
 全てが初めてのことで、戸惑いと緊張が隠し切れないのは解るけれども、こんな風に固まられては、この先何もできないではないか。
「恥ずかしいですか?」
「当たり前だ!」
 叫ぶように言った三蔵の、裸の身体を眺めながら、八戒は本気で困ったように首を傾げた。
「うーん。どうしましょうねぇ」
 羞恥心をなくせとは言わないけれど、せめて身体を預けてくれるくらいの余裕がなければ、この先は本気で辛い。
 緊張に萎縮する狭い器官を抉じ開けなければならないのは、お互いに血を見ることになってしまう。
 ただでさえ苦痛が伴う行為だというのにだ。
「おまえも、脱げ」
 一気に無理強いせずに、ゆっくり馴らして身体を開かせた方がいいのかもしれない。と、今夜はここまでにしようかと考えた八戒に、三蔵の面映ゆそうな声が掛かった。
 そういえば、三蔵は一糸纏わぬ裸体なのに、八戒はしっかりバスローブを着込んでいるではないか。
「そうですね、貴方だけ恥ずかしい思いをさせてすいません」
 八戒は、躊躇いなくベルトを外して肩からローブを滑り落とす。
 痛々しく引き攣れた腹の傷も露に、三蔵と同じように全裸になった八戒は、まだ膝を胸にくっつけるようにしている三蔵を、横たわったまま背中側から抱き締めて、うなじにくちづけた。
「そんなに緊張しないで」
 殊更優しく囁けば、三蔵の身体から僅かに力が抜けるのが解る。
 後ろから回した両手で、引き締まった腹から胸までを何度も撫で回してゆったりと熱を煽るように愛撫を続ける。
 肌を撫でられるのが気持ちいいのか、三蔵がふっと浅い吐息を漏らしたのを聴いて、八戒は再び昂ぶりへと指を伸ばした。
 途端に、びくんと引き攣る細い身体。
「大丈夫ですよ、僕に任せて」
「ん…」
 恐々だが素直に弛緩させ、背中をぴたりと胸に押しつけてくるのが可愛いくて、口元に笑みを刻みながら、八戒はゆるゆるとそれを擦り上げた。
「あ…はっ…」
 禁欲的な生活を強いられてきたせいか、三蔵のものは神経が剥き出しなのではないかと思うほどに過敏で、少しでも刺激が強ければ、痛みさえ覚えてしまうかもしれない。
 苦痛ではなく、快楽だけを与えるように細心の注意を払いながら、八戒は緩慢とも思えるほどの緩さで三蔵を扱いた。
「んんっ…」
 汗ばんだ肌がぴたりと密着する。
 三蔵の愉悦が彼の身体から染み渡るように八戒にも伝わり、八戒の興奮も覚え始めた。
「あぁっ…八…戒っ」
 先走りの透明な蜜を潤滑剤代りに、一気に手の動きを早めてやると、三蔵はくうっと鼻に掛かった甘い溜息を漏らして、八戒の手の中で達する。
「可愛いですよ、三蔵」
 絶頂を迎えたときの表情を目にすることができなかったのは至極残念だ。
 きっと、この上ないくらいに綺麗な顔をしていたに違いないのに。
 呼吸を荒くしている三蔵の身体を抱き締めたまま、器用に体勢を入れ替えた八戒は、三蔵を仰向きに横たわらせてしなやかな両足を撫でる。
「僕も、悦くさせてください」
 実際は悦楽だけでは済まないことぐらいは八戒も三蔵も解っているだろう。
 元々そんな風に造られているわけではない場所に、八戒を迎え入れることになるのだ。恐らく快楽よりも苦痛の方が勝るに違いないし、正直肉体を傷つけてまで身体を繋ぐことに、どんな意味があるのかとさえ思う。
 それでも、たとえそれがお互いの身体の一部分でしかなかったとしても、明らかに繋がっているということの証明がそこにある。
 八戒にも三蔵にも、それが寄り添う気持ちの象徴のような気がしたのだ。
「こいよ」
 まだ吐精の余韻に頬を紅潮させたまま、三蔵は自分を見下ろす八戒の首に両腕を投げかけた。
「ホントにいいんですね?」
「おまえもしつこいな」
 ここしばらくの間で、一体何度聴いたか解らない台詞に、三蔵は苦笑した。
 嫌だと言えば素直に止めるだけの余裕が、八戒にはまだあるというのだろうか?
 自分に後悔させたくないという八戒の気持ちは痛いほど伝わってくるけれども、こっちの覚悟はとっくにできているのだから。
 八戒から好きだと言われて、戸惑いがなかったわけではない。驚かなかったわけでもない。
 しかし、どこかでいつかこんな日が来るのかも知れないと、漠然と感じていたことも事実だ。
 突っぱねることもできたはずだし、一笑に伏して冗談としてうやむやにしてしまうことも可能だった。
 これから先も四人で旅を続けていく以上、きっとその方が先々楽だったかもしれないとも思う。
 それでも、祈るように真摯な眼で訴えかける八戒を、三蔵は考えるより先に抱き締めていた。
 多分、きっと自分でも気づかないうちに自らも望んでいたことだったのかもしれないと、三蔵はそのとき感じたのだ。
 愛だとか恋だとか、そういうものはよく解らないけれど、八戒が自分を求めるように、自分も八戒に魅かれていたのだろうし、こうして触れ合うことに嫌悪や背徳の気持ちが生まれないことがその証なのかもしれなかった。
「ちょっと、気持ち悪いかもしれませんけど」
 そう言って、八戒は伸ばしていた三蔵の膝を立てさせ、自分の身体を割り込ませることができるくらいに両足を広げさせる。
 それから、サイドテーブルに置いてあった小さな容器から粘り気のある軟膏を指で掬い取ると、三蔵の双丘の狭間に擦りつけた。
「なに…」
「傷薬ですけどね、体温で溶けますから」
 さすがの八戒も、潤滑剤を所有しているわけではなくて、悟空が引っ掻き傷を作ったときに使用する傷薬のキシロカインで代用するしかない。
 自力で潤える場所ではないだけに、乾いた肉を押し込めば裂けてしまうのは眼に見えている。
 潤滑剤代りに外傷用の軟膏というのは、色気に欠ける気もしなくはないけれど、この際仕方ないだろう。
 小さな蕾の回りを揉み解して、ゆっくりと指先を含ませる。
 八戒の言ったように身体の熱でぬるぬると溶けだしたらしい感触が、三蔵に伝わってきた。
「なんか…」
「変な感じ、します?」
「ん」
「痛くはないですか?」
「ああ」
 浅いところを掻き回されている気はするけれど、痛みはない。
 それでも、異物を排除しようと無意識に引き締まる筋肉が、八戒の指の存在をありありと感じさせて、三蔵は縋がるように彼の肩を引き寄せた。
「痛かったら言ってくださいね。無理させるつもりはありませんから」
 入り口のきつい部分を抜けて、奥の方まで軟膏を塗り込めながら、八戒は三蔵が強い快楽を感じる一点を見つけ出そうと内側を探る。
「あっ…」
 やがて上ずった声が漏れて、三蔵はきゅっと眉根を寄せたまま顎先を上げた。
「ここですね」
 僅かに関節を曲げたあたりに当たる小さな愉悦の粒。
 八戒は、集中的にそれを攻め立てて、徐々に三蔵の内壁を広げていった。
 ふるふると震えるように小刻みに首を振る切ない表情。
 きゅっと噛みしめた唇が血の色を増して紅く染まるのを、八戒は愛しそうに見つめた。
「もう、大丈夫ですか?」
「多分な」
 そんなこと尋かれたって解らないというのが本音だけれど……。
 三蔵はこくりと頷いて、八戒を受け入れやすいように更に少し脚を開く。
 身体の奥まったところに押しつけられる八戒の熱の塊。
 彼も興奮しているのだという証明が、三蔵の緊張を僅かに緩める。
「いいですね」
 答えを待たずに、ずっと押し込まれたものの想像以上の大きさに、三蔵は身体がばらばらになってしまいそうなほどの衝撃を感じた。
「痛っ!」
「あぁ、まだ無理ですか…」
 咄嗟に漏らした一言を八戒が聞き逃すはずもなく、引き抜こうと腰を下げかけたのを、三蔵が押しとどめる。
「いい、大丈夫だから。そのまま来い」
「でも…」
 心配そうに眉を顰める八戒に、薄く笑いかけてやって、三蔵はもう一度掠れた声で言った。
「大丈夫だ」
 たとえ痛みの方が強くても、もっと深く八戒を感じたい───。
 その時の三蔵を支配していたのは、その感情だけだったから。
「無理はしないでくださいね」
 念を押すように言って、八戒は再びぐっと腰を割り入れてくる。
 悲鳴を上げないように息を詰めた三蔵を、鋭い痛みが突き抜けた。
 耐えきれなくて、八戒の肩に爪を立て、それでも必死に声を殺す。
 三蔵が苦痛を感じていることぐらいは八戒にもあからさまに伝わったけれど、彼がそれでも自分を受け入れることを望んでくれることが何よりも嬉しい。
 なるべく負担を掛けないように、長い時間を費やして全てを三蔵に納めた八戒は、愛しくてたまらない細い身体をぎゅっと抱き締め、金糸の一筋が汗で纏わりついた頬に、何度も唇を押し当てた。
「三蔵…三蔵、愛してます」
「あぁ」
 俺もだ。とは言わなかったけれど、多分三蔵も愛しさを感じてくれているはずだ。
 これは、希望かもしれないし、勘違いかもしれないけれど───。
 三蔵は、彼の意志で八戒の腕の中にいて、彼が望んで身体の奥に受け入れてくれている。そう、辛いはずの痛みを堪えてくれてまで。
 八戒は、泣きたくなるほどの幸せを噛み締めて、彼に頬擦りを繰り返した。


 身体中がぎしぎしと悲鳴をあげている。
 引き裂かれるような痛みを伴った情交だったけれど、それでも三蔵の身体に優しさの余韻の方がずっと強く残っていて。
 指先まで痺れるように気怠い身体を八戒に預けて、三蔵は彼の温もりに包まれていた。
 柔らかく髪を撫でられることとか、戯れのように唇に触れられることとか、そんな他愛もないことの全てが心地いい。
 眠りの影が覆い被さるように三蔵の上に舞い下りて、今にも吸いこまれそうになるのを、かろうじて耐えている。
 このまま眠ってしまえば、とても幸せな夢を見られるような気がするけれど、もう少しだけ、こうして八戒の存在を傍らに感じていたかった。
 明日になれば、また何事もなかったかのような顔をして、接しなければならないのだ。
 少なくとも、悟浄や悟空に悟られるわけにはいかないのだから、再び誰にも邪魔されない夜を迎えるまでは、こんな風に甘やかな時間を過ごすことはできない。
 だから、もう少しだけこうしていたい。
「綺麗ですね」
 八戒の言葉に視線を上げると、彼はカーテンさえ閉じられていなかった窓の外に眼を向けて、ひらひらと舞い落ちる白い桜吹雪を見つめていた。
「そうだな」
「白い桜が、貴方に似てると言ったら、笑いますか?」
「俺に?」
 怪訝そうに尋き返した三蔵に、八戒はうっとりと微笑みかけて、額に小さなキスを落とす。
「貴方はあれだけの血を浴びても、紅く染まることはないじゃないですか」
 白い桜の根本にだけ、死体が埋まっていないのではなくて、その木は血の色に染まらないだけなのかもしれない。
 どんなに血色に染められても、自らの白さの方が強いから───白くありたいという意志が強いから、だからその清らかな白さを保っていられるのかもしれない。
 朱に交わっても決して朱くは染まらず、輝くばかりに高貴な白さを放ち続ける三蔵のように。
 八戒は、ふとそんな風に感じたのだった。
 歯の浮きそうな睦言よりも余程気恥ずかしい話を、平然と語った八戒に、三蔵は甘い眩暈さえ覚える。
 自分が白いか紅いかなんて考えたこともないし、一応は男である以上、花に喩えられて嬉しいなどとは思えないけれど、八戒がそう感じているというのなら、そう思わせてやっておいてもいいかもしれない。
「そりゃもう…」
 言葉を途中で止めた三蔵は、唇の端を僅かに持ち上げて、人の悪い笑みを浮かべると、掠めるように八戒の唇にキスをして、耳元で囁いた。
「爆笑だろ?」


 初まりは、満開の桜が、雪のように舞い落ちる、甘い春の宵だった───。








―了―
「neo-insanity」(閉鎖)様にて8888hitキリ番を踏んだ時のリクエスト品♪
リク内容は、『お初♪』・・・大人仕様のサイト様でキリ番を踏んだ時は必ずお願いするという・・・(変態)。
初夜は男と腐女子の夢なんですって!(爆)
佐伯 風夜様、本当に有難うございました!



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