そもそも三蔵様が月の精霊って時点でもう(苦笑)







※このお話は、同タイトルの少女小説を、最遊記キャラに置き換えたパロディ小説です。
※尚且つ83です(特に三蔵様はキャラ崩壊傾向)。
※以上の注意を踏まえた上で、『どんと来い!』という方は、どうぞご覧下さいませ。
















 ――江流は不意に目覚めた。そして目覚めたという事実を怪訝に感じた。
 今日は、新月。
 月の精霊である自分達は、昼はこの精霊宮の中で祈りの日々を過ごし、夜は外で活動するが、新月の日だけは例外で、精霊としての能力を封じる闇の力の強さ故に、精霊宮の最奥で一日眠って過ごすのだ。
 私室に時を示す物はないが、それでも夜明けにはまだ四半日以上時間がある事だけは、感覚で判る。
 常ならば最も深い眠りに就いている時刻に、目覚めるなど有り得ない筈なのに。
 再び眠りに就こうと掛布を引き寄せたが、胸の奥がざわめくような、言いようのない不安感にかられ、再度身を起こした。
 手探りで枕元に置いている燈明皿を引き寄せ、指をパチンと鳴らして火花を生じさせ、灯芯に火を灯す。
 新月の夜でも、この程度のことであれば可能だ。
 ふわりと灯った灯りを手に取ると、江流は他の精霊達を起こさぬよう、足音を忍ばせて私室を出た。
 月の精霊の長――『司』と呼ばれる――の末子である江流の部屋は、廊下の端、祭壇のある広間に近い側にある。
 年齢順に兄姉の部屋が並び、最奥は、江流の生みの親である『司』の部屋だった。
 目を凝らして廊下の奥まで見渡すが、兄姉も『司』も、起きている気配はない。
 やはり、この闇の中、目を醒ましたのは自分だけらしい。
 江流はそう判断すると、今度は広間へと歩を進めた。
 普段は磨かれた白い大理石が月光を反射し、最奥までくまなく照らされているので、光の差し込まない精霊宮というのは、江流は初めて目にする。
 一瞬怯むも、末っ子故の負けん気の強さが、怖気付く気持ちを打ち消して足を動かしていた。
 広間に出て初めて、江流は精霊宮に起きた異常を見て取った。

「衛兵が・・・いない?」

 常時精霊宮と自分達精霊を護る為に存在する衛兵の気配がない。
 要所に立ち監視を務める者達、2人1組で警邏し周囲の異常の有無を確認する者達、
 そのいずれとも、唯の一人も自分と鉢合わせていない。
 新月の夜の光景を、自分は見たことがない――眠っているのだから当然である――が、この状況が平常でない事くらいは、察することが出来た。
 『司』を呼ぶべきか・・・しかし、眠りに就いているところを起こす不敬を咎められはしないか――江流が逡巡していたその時、



 コツ



「誰だ!?」
「っ!・・・」

 かすかな靴音を耳に拾い、鋭い声を上げる。
 腕を伸ばし、高くかざした灯りに浮かび上がったのは、灰色のフードの下から除く昏い色の髪と、それとは対照的な淡い象牙色の肌。
 何より印象的なのは、自分の突き出す灯りに照らされ緑柱石(エメラルド)のように煌く双眸。
 年の頃二十歳程度の若者が、驚愕に眼を見開いて立っていた。
 衛兵・神官以外の『ヒト』を初めて見た江流は、一瞬虚を突かれるも、次の瞬間には怒りに紫暗の眸を煌めかせ、侵入者を()め付けた。
 睨まれた当の本人といえば、相手が衛兵ではないと判ると表情を和らげ、安堵の表情すら浮かべている。

「お前、どうやって入った?衛兵は・・・」
「あぁ、あの人達。言っては何ですが、兵と呼ぶには余りにも非力過ぎて、拍子抜けしちゃいました。実戦経験に乏しいというのは、守衛たる者にとっては致命的ですねぇ」

 のほほん、という形容が当て嵌まりそうな口調に、神経を逆撫でされた江流は、更に怒気を高める。

手前(テメェ)・・・!此処は聖なる月の精霊宮、貴様のような只人が足を踏み入れていい場所じゃねぇぞ!
 衛兵に対する蛮行と聖域に足を踏み入れた事に対する非礼については、一度だけ不問に伏してやってもいい。とっとと――・・・」

 そこまで言って、ハッと眸を見開く。

「お前、それ――その袋の中身は!」
「ああ、バレちゃいました?」

 大仰に肩を竦め、青年は腰に結わえた革袋の口を緩めた。
 赤子の拳程度の大きさ、月の光を凝縮させたかのような淡い真珠色の光を放つ――

「月晶石・・・っ!!
 貴様、只人の分際で、この精霊宮で盗みを働くとは!」

 月晶石――幾千幾万の年月を掛け、満月の光のみを受け続けることで、月そのものにも匹敵する程の力を帯びた、月の精霊宮の宝珠。
 間違いない、この男は、全ての精霊が眠りに就き、精霊宮全体が闇に包まれる新月の夜を狙い、この宝を盗みに入ったのだ。

「その石は、お前なんぞが手にしていいもんじゃねぇんだぞ!さっさとこっちへ寄越すんだ!!」
「『お前』とか『なんぞ』とか、さっきから貴方、随分と上からな物言いですが、月の精霊って皆さんそんなに高飛車な方ばかりなんですか?」
「なっ・・・!」
「それに僕の事を只人呼ばわりしてますが、新月の夜の貴方達が、僕達人間とどれだけ違うと?」
「っ・・・!」
「それだけじゃない――例えば」

 いつの間にか、江流との距離を縮めた青年は、片手で江流の身体を包み込むように抱き、もう片手を顎に添えて、上を向かせた。
 最初に対峙した時は左程違わないと思っていた背丈が、実は相手の方が僅かに高いと思い知らされ、江流は不機嫌になるが、それよりも見知らぬ人物と密接しているという事実に、反射的に身を硬直させる。

「安全な月の精霊宮から人々を只見守るだけの貴方がたが、危険と隣り合わせの日々を生き抜く為数多の敵と戦ってきた僕達人間に、力で敵うとでも?」
「っ――は、放せっ!!」

 言いようのない恐怖心に駆られ、江流は身を捩るが、拘束が緩むことはなかった。

「放せと言われて、はいそうですかと承諾するほど、僕はお人好しじゃないんですよ。
 それに――放せる訳ないじゃないですか・・・こんな――・・・」

 呟きは、最後は吐息と混じり、

「―――っ!!?」

 己の唇が、彼のそれによって塞がれている事を認識するまでに、数秒を要した。
 驚きに硬直した江流の右手から燈明皿が落ち、床に当たって硬質な音と共に砕け散る。
 灯芯が油の上に落ちなかったのか、油の残量が少なかったのか、幸いにも火が広がることはなく、灯芯の火が消えると同時に広間は闇に包まれた。

「・・・・・・っ、ぅ・・・っ、ふ、んっ・・・・・・」

 永遠にも思われる、長い口付け。
 息苦しさと、それを上回る恐怖に、反射的に相手の身体を押し返そうとするが、青年の言った通り、非力な精霊の腕力が若いヒトのそれに敵う筈もなく、
 畏れと、羞恥と、屈辱と――様々な感情で一杯になった精神(こころ)が、現実を受け止めきれなくなったのだろう、
 眦から涙を一筋流し、江流は意識を手放した――








 月の精霊宮は、上を下への大騒ぎとなった。
 無理もない。一夜の間に宝物である月晶石が盗まれただけではなく、次代の『司』第一候補であった江流が、ヒトの口付けを受けたことでその身に穢れを帯びてしまったのだから。
 昨夜の出来事を、江流は一言たりとも口にしなかったが、『司』は全てを見透かしていた。
 月晶石を盗んだ侵入者をみすみす逃してしまった事と、ヒトから穢れを受けた事で、江流は責めを負うことになる。
 罪を犯したり、穢れを受けたりした精霊は、当然精霊宮の在る聖域にいることを赦されない。
 犯した罪の内容に依っては、生きたまま地獄へと堕とされるという。
 そこまでいかない場合でも、妖魔・悪霊その他有象無象の闊歩する地上に追放され、死を迎えるその日まで彷徨い続けることを余儀なくされるのだ。
 元々寿命の長い精霊にとって、それは耐え難い苦痛であり、殆どの場合正気を失ってしまうと聞く。
 自分もそのようになるのか、おぞましさに身震いする江流だったが、

「――貴方に、機会を与えます」

 神官を通して、『司』である生みの親、光明の言葉が告げられる。
 穢れを帯びた者が、『司』に謁見したり、言葉を交わしたりすることは、通常許されないからだ。

「此度盗まれた月晶石を、探し出して取り戻すこと、これが第一の条件です。
 期限は一月――この精霊宮と人間界が繋がれる、次の新月の夜まで。
 そして第二の条件は、その身に受けた穢れを祓うこと――これにより、貴方は精霊としての本来の魂を取り戻すことが出来るのです」

 江流が精霊に戻る手段は、月光を紡いで作られた銀の短剣で、己を穢した相手の心臓を貫くこと。
 相手の魂を以て、己の身と魂を浄化するのだ。

「それまで貴方には、ヒトとなってヒトの世界で生きていくことを命じます。精霊であった時の『江流』という名も名乗ってはなりません。
 貴方は、穢れを落とすその日まで、ヒトとしての仮の名――『三蔵』を名乗るのです」








 『三蔵』――何度反芻しても、慣れない名だ。

 だがそれ以外、自分が名乗れる『名』などない。
 あれから10日。
 『三蔵』というヒトとしての名と、神官見習いとしての仮初めの身分を与えられた江流――今後は三蔵と記す――は、あの夜月晶石と自分の唇を奪った青年を探すべく、人間界に降り立ち、ヒトの住む町を渡り歩いていた。
 『司』が感じ取った月晶石の気配と、あの青年の風貌から、大まかな地域は特定されているものの、流石に居住地までは絞りきれない。
 神官見習いとして、ヒトから施しを受けて飢えを凌ぎ、その土地土地にある神殿の関連施設で雨露を凌ぐ。
 そうしながら、暗色の髪に碧の眸を持つ青年の居所を尋ね回った。
 だが、生来の他者と和合しない性格が災いし、いさかいを起こして追い出されたり、逆に二心を以て近付く輩に騙され、売り飛ばされそうになったりと、10日という短い日々の間に散々な目に遭った三蔵は、心身共に疲弊していた。
 それだけではない。
 時の流れと共に伸びていく爪や髪に、これがヒトの肉体であるという現実を突き付けられ、このままあの青年を見付けられずに精霊宮を永久追放され、人間界で老いて短い寿命を終えるという可能性もある事に、愕然ともした。

 それもこれも、あいつの所為だ――

 碧の眸の青年。
 髪の色・身長・年の頃と共に挙げられる数少ない特徴といえる、あの湖の底のような(いろ)の――
 そこまで考えて、三蔵は急に身体が熱くなるのを感じた。
 思い起こされるのは、あの新月の夜の――
 慌てて、かぶりを振って思考を消し去る。
 この10日の間、幾度となく繰り返している行動。
 なぜ、あの青年の事を思い返す度、このように身体が熱くなり、脈が速く打つのか、
 その理由を明確に知ることもなく、ヒトの身だからという事で結論付けている。

 とにかく、奴を見付けて月晶石を取り戻し、穢れを落とす。そして月の精霊宮に還る。そのことだけを考えるんだ・・・

 懐に隠し持っている銀の短剣の存在を確かめつつ、一歩一歩荒野を進む。
 それはさながら、獲物を探す孤独なコヨーテのようだった――







なかがき

ああもうホントごめんなさいとしか言いようがありません;
大昔に読んだ前田珠子女史のコバルト文庫作品を、内容は8割方そのまま、83に置き換えてみました。なので、原作比380%で三蔵様が偽物(^_^;)。
当時は違和感なく読み進めていた香月ですが、『口付けだけで穢れ扱いって酷いな』と思うようになった辺り、穢れたのは香月の方かも知れません(爆)