捻りのないタイトルをどーしたものか(脱力)







 ※一応、Be There〜幕間話の続きとなっています。




 つくづく、自分は人的環境に恵まれていないと思う。
 離婚して自分と姉を引き裂いた父親、孤児院に自分を棄てて蒸発した母親はもとより、神の名の下に上っ面だけの善人を演じる孤児院のシスター達、自分の頭の悪さを棚に上げて態度ばかり大きな学院の同級生(年上だけど)達、 そして――手に入れた筈の安寧を壊した、あの村の連中。

「――花喃・・・」

 虚空へと向けられた呟きは、自分以外聞く者などない。
 その後から今現在に至るまでも、自分が出逢った人物の行動は、常に己の予想の斜め上をいっていた。
 地獄へ堕ちるとばかり思っていた自分――しかも内臓をはみ出させていた――を拾い、名前すら聞かずに匿った男。
 要らないと思って抉った目を、真っ直ぐこちらを見ながら綺麗だと言った少年。
 そして――・・・



 ジャラン・・・チャリ・・・ガチャリ
 コンコン ガチャ



 鍵が開けられる音に続くのは、形ばかりのノック。
 こちらからの返事を待つこともなく、扉は開かれる。
 中にいる者の了承の有無など、知ったことではないのだろう。
 そう、中にいる自分は――罪人、なのだから。

「・・・・・・ぁ、・・・」
「座ってろ、怪我人――といっても、もう怪我はあらかた塞がっているようだがな」
「えぇ・・・」

 取り敢えず椅子を来訪した人物に譲り、自分はベッドへ座る。
 そして、今朝包帯の取れた手を差し出す。
 僅かな痕を残すばかりのそこは、数日前に自ら窓ガラスでざっくり切った場所だ。
 傷の場所が場所だということで、それまで嵌められていた手枷――咎人の象徴――は、治癒するまでという条件で外されている。

「大したものですよね、妖怪の治癒力って。まぁ、腸がはみ出ていても生きていたくらいですから、血管の1本や2本、ガラスで切ったところで塞がる方が早いんでしょうかね」

 自嘲気味に呟くと、何故か目の前の人物は複雑そうな面持ちになる。
 首を傾げることで問い掛けると、その人は僅かに嘆息しながら、

「・・・見落としていた俺がとやかくは言えんが、お前、手だけじゃなく手枷のすぐ近くの血管まで切っていたらしいな?
 医者が言うには、そこらの妖怪なら失血死してもおかしくない深さの傷だったらしい。手枷を外してなければ、発見も処置も遅れるところだった、とな。
 気付くのが早かったのいうもあるが、根本的に生命を維持する能力のレベルというものが、お前のそれは桁違いなんだとよ」
「・・・・・・」

 言われた内容は、薄々勘付いていたものだったが、
 実際に言の葉として耳に入れられると、残酷な現実を突き付けられた感が強い。
 じゃあ自分は、自分のこの身体は、普通の妖怪とも違うモノになってしまったのか。
 気が付けば考えるより先に、言葉が口を突いて出ていた。

「・・・化け物、ということですよね・・・」
「おい・・・」

 秀麗な眉が、咎めるように顰められる。
 けれどさっきの話の内容は、つまりはそういう事だ。
 凪いでいた心に、急速に翳が広がり、波立つのを感じる。

「だってそうじゃないですか!ヒトでも妖怪でも有り得ないって!
 今までだってそう、何度も何度も何度も!早く花喃の所に逝こうと刃物や刃物の代わりになる物で自分を刺そうとしたけど、気が付けば傷は塞がっている!
 どうして!!――どうして、生きていて欲しい人に死なれて、それなのに死にたいと思う自分が死ねないんですか!?」

 堰を切ったように出てきたのは、これまであらわにすることの殆どなかった感情。
 どのみち死罪となる身で、無駄に日々を生きているなど、苦痛でしかないのに。
 何度死を望んでも、意識は現実へと戻り、目の前にはこの人がいる、その繰り返しで。

「・・・・・・死にたいのか」
「言っているでしょう!?もう僕には何も遺されていないし、多くの命を奪った、死んで当然の存在なんです。それなのに、これ以上生き続ける理由があるというのですか!?」

 カッ、と。
 いつの間にか空を覆い尽くした黒雲が、青白い雷光を放つ。
 それを合図に、葉や窓を穿つような音を立てて大粒の雨が落ちてきた。
 それに呼応するように、自分の中をどす黒い感情が支配し始める。
 そう――その方法があった。何故気付かなかったんだろう。

「お前――・・・」
「殺して、下さい・・・貴方の銃なら、容易いでしょう・・・?」








 滝のような雨が轟音を上げる窓の外とは対照的に、しんと静まり返った独房。
 『死』を渇望する青年の瞳は異様に澄み切り、唇は笑みを浮かべている。
 その凄まじいまでの美しさを眼にして、得体の知れぬ感覚にぞくりと膚が粟立った。

 ――こいつは、

 それを魔性というのなら、自分はそれに魅入られたのか。
 どんな事であれ、その要求に従わずにはいられない、そう思わせる何か。

「・・・・・・」

 椅子から立ち上がり、懐から銃を取り出す。
 新しい玩具を目の前にした子供のように、翡翠の瞳が細められた。
 ガチリ、と安全装置を外して額に銃口を突き付けるが、その表情に恐怖の色はなく、むしろ恍惚ともいえそうな、悦びの(いろ)が見える。
 節の目立つ指が、トリガーに掛けられ――



 ――カチリ



「・・・・・・・・・?」
「生憎だったな、弾切れだ」
「そん、な・・・」

 至福の表情から一転、絶望のそれへと変わるのを、苦々しく思う理由はさておき、
 用を為さなかった、もとい、用の済んだ銃を懐にしまう――常日頃、事故防止のため一番上の弾倉のみ弾を込めていない事は、気取られてはならない。

「たとえ弾があったとしても、お前に使う理由も意味もねぇ。
 『死』は逃げでしかない。『生きる』ことこそが今お前に与えられる罰だ。
 苦しみもがき、喘ぎのたうちながら、這いつくばってこの現実を生きろ」
「・・・・・・」

 (いろ)を無くした貌を凍りつかせていた青年だが、やがてその左目から一筋の涙を零し、

「死罪になると判っていて、それでも現在(いま)を生きろと仰るのですか?
 貴方は、残酷だ・・・!」
「・・・・・・」

 その言葉には敢えて返さない。
 だが、このまま泣き続けられるのを是としない自分がいるのも事実で、

「ぇ・・・」

 先程トリガーを引いた指の背で、涙の筋を拭う。
 自分でも思い掛けない行動だったが、それは相手にとっても同様だったのだろう、流れていた涙は止まったので、取り敢えず良しとする。
 そして、ここへ来た本来の目的を果たすべく、口を開く。

「斜陽殿での判決が来週に決まった」
「!・・・・・・」
「これまでみたいに馬鹿げた事をして延期になるなんざ、もう御免だ。その度調整に奔り回るこっちの身にもなれってんだ」
「・・・・・・はい・・・」

 先程の凍った表情とはまた異なる落ち着いた顔付きで、しおらしく答える。
 恐らくは、来週になれば、『死』という安寧を得られると思っているのだろう、
 そんな彼を余所に、踵を返して独房を出、執務室に入ってから、大仰に肩を竦める。

 ・・・ったく、利口なんだか馬鹿なんだか・・・

 『「死」は逃げでしかない』という自分の言葉が、上、すなわち三仏神にも伝えられている事は、あの青年の頭脳なら予想出来ない筈もないだろうに。
 ここ暫くの不安定な気候が、その思考を鈍らせているとしか思えない。
 判決が来週なのは、先日の騒動によって本来の日程を変えざるを得なかった結果であって、言い渡される内容は既に決定済みだし、自分だけには聞かされている――というより、自分の意見がそのまま判決に反映されたというべきか。

「――死ぬなんざ、この俺が許さん」

 誰にともなく言い聞かせるように、そして自身に誓うように、
 呟いた言葉は、思いの外明瞭で、
 (オン)にして初めて、自分があの青年に対してある種の執着を抱いている事に気付かされる。
 唯一人の人を喪ってから、その人の説いた言葉のまま、何にも捕らわれず生きてきた自分が。
 天命も本人の意思すらも曲げて、大罪人を娑婆に――己の手の届く場所に留め置くとは。

「・・・ククク・・・ククククク・・・・・・」

 手で顔を覆い、天を仰ぐ。
 御仏も、何の酔狂で自分と彼の青年を巡り逢わせたのか。
 久し振りに発した笑い声は、なかなか止められるものではなかった――








―了―
あとがき

すいません今回もビバ寺院時代を地で行く内容。しかも途中で視点が変わるという読み辛さ(謝)。
原作より、『Be There』は前半(三蔵と悟能の邂逅)(←残り2人はどーした)が初夏、後半(八戒が居住地を三蔵に申請)(←だから残り2人は以下略)が晩夏の内容と解釈しており、故に勾留期間は夏、というのが香月の持論。
なので季節を示す文章は欠片も出ていませんが、これでもテーマに沿わせたつもりです(汗)。
ちなみに三蔵様、執着心は自覚しましたが、何とそれが恋だと気付いていない状態(爆)



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