ある意味最強の小舅&小姑・・・(震)





 リビングの明かりは、花喃が寝入ったので落とした状態にして。
 八戒は隣の台所へ三蔵を案内する。

「お詫びに、さっき作ったコーヒーゼリーです。どうぞ召し上がって下さい」
「・・・いいのか?」
「多目に作っているので是非。中身に砂糖は入れていないですから、シロップをかけてどうぞ」
「・・・頂戴する」

 ゼリーを口に運ぶ三蔵の姿を横目に見ながら、八戒はせっせとボタン付けに取り掛かる。
 花喃の言っていた通り取れかかっていたボタンも、一度糸を抜いてしっかり縫い付けた。

「・・・出来ました」
「早いな」
「裁縫や料理といった家事全般は僕の担当なので。あ、普段は海外文学の翻訳業をしています」
「・・・そうか」
「あ、の・・・」
「ん?」
「三蔵さん、って、花喃の・・・その、恋人とか・・・?」

 先程抱いた疑問。
 口に出してから、八戒は、自分がそれを望んでいないという事に気付いた。
 理由は解らない、けど、目の前の綺麗な人が、誰かとそういう意味の付き合いをするという事が、こんなにも自分の心を痛くする・・・
 ところが、渡された背広を着た三蔵から返ってきた答えは、意外なものだった。

「・・・・・・・・・は?」
「え、だって、飲み会で潰れたのを連れ帰るって、普通はタクシーを捉まえれば済む話ですし・・・」
「そ、それはだな、お前の姉貴が・・・いや、そんな事はどうでもいい。
 とにかくだ、俺はお前の姉貴の職場の同期であって、付き合っているとかじゃねぇ」
「そうですか・・・良かっ・・・!」

 つい口を突いて出た本音に、慌てて手で口を塞ぐ。
 耳まで赤くなるのが、自分でもはっきり判る。

「お前・・・八戒といったか・・・今、何て・・・?」

 言いません言いたくありません言っちゃいけませんっ!
 っていいますか僕、今とんでもない事を・・・!?

 口を塞いだまま顔を背ける八戒の視界が翳った事に気が付き、顔を上げると、

「あ・・・三蔵、さん・・・」
「『さん』は要らねぇ・・・八戒、俺が今からすることを嫌だと思うなら、遠慮なく俺を殴れ」

 言うや、その腕の中に、八戒をすっぽりと閉じ込めたのだ。

「!!っ・・・」
「・・・嫌か?」

 ほんの僅か、震える声で尋ねてくる麗人に、八戒はかぶりを振る。

 嫌なんかじゃない。それどころか・・・・・・嬉しい。
 僕・・・この人の事が・・・

「・・・好きだ」
「!・・・・・・」
「逢ったばかりでおかしいだろうが・・・自分自身でも正直変だと思う。だが、玄関の扉が開いてお前の顔を見た時、今まで感じたことのない気持ちになった・・・」
「・・・僕も、です・・・三蔵、僕、貴方の事・・・」
「八戒・・・」
「三蔵・・・」
【もっしも〜し、八戒クン?君僕の存在忘れてますよねー?】
「「!!?」」

 ピンク色に染まりかけた台所の空気を割って入った声。
 反射的に、互いの身体から離れる2人。

「おい、今誰が・・・!?」
「て、天蓬!貴方今のをずっと・・・?」
【えぇそうですよ。ったく、一般人がいると思って大人しくしていれば、人の目の前でいちゃつき始めちゃって・・・て、金蝉!?】
「『こんぜん』・・・?」
「おい八戒・・・この声、このオーブンみてぇなのから聞こえてくるが・・・」
「あぁこれはかまどでして、声を出しているのはかまどの精霊・・・って三蔵、貴方この声聞こえるんですか!?」
「聞こえる・・・ということは、幻聴じゃねぇんだな?」
【そういうことになりますねぇ。久し振りに僕の血筋以外で『波長』の合う人に会いました。
 初めまして。僕はこの家のかまどの精霊、天蓬。
 天ちゃんと呼んで下さいな♪】
「三蔵・・・天蓬・・・」

 あわわ、とうろたえる八戒。
 かまどの精霊がいるなんて、化け物屋敷と思われたら・・・!

 絶対、気味悪がられる・・・嫌われてしまう。嫌だ、そんなの・・・!!

「・・・要するに、あんたは小舅的立場になるわけか」
【そういう事になりますね。僕の目に狂いがなければ、貴方と八戒はどうやら結ばれる運命にあるようですし】
「ほー、第3者から太鼓判を押してもらえるなんざ、光栄だな」
「・・・・・・あ、れ?」

 ・・・会話している。三蔵が、天蓬と。普通に。

「三蔵・・・怖いとか、気持ち悪いとか、思わないんですか?」
「お前がそう思っていないものを、なぜ俺がそう思わなきゃならん。
 ただ、邪魔をされるのだけは御免だがな」
【まあ、無粋なことはしたくありませんが、台所(ここ)でコトに及ぶのだけは止めて下さいね】
「天蓬!!」








 邪魔が入ったせいというわけではないが、取り敢えず三蔵はそこで暇を告げ、翌朝――

「おっはよー、八戒♪」
「あ・・・お早う花喃」
「お早う。それと、おめでとう♪」
「・・・・・・はい?」
「傍若無人な何様俺様だけど、絶対貴方の事好きになると思ったの。女の勘って奴?
 私の目に狂いはなかったわけね♪」



 ・・・・・・・・・・・・

 !!?



「かかか花喃っ!?貴女、昨日は・・・?」
「やーねーっ、八戒ったら、私がお酒に酔ったことなんて、今までにあった?」
「ない・・・です」

 そうだった。
 あまりに綺麗な人の出現に動転していて、目の前の姉がウワバミである事を失念していた。

「頬紅を顔全体に塗ってへろへろな口調で喋れば、あのお馬鹿さん、まんまと騙されちゃって♪
 そんで『家に送ったら、良妻賢母なうちの弟がデザートを振舞うから』って言ってやったの。
 あの男、見た目に似合わず甘党なもんだから、喰い付くと思ったわ。
 そして家で貴方に逢わせれば、絶対オちると踏んだわけ」

 どう、上手くいったでしょう?
 ウインクする姉に、脱帽するしかない。
 花喃が台所を出たと同時に、かまどから声が聞こえる。

【流石僕の血を引く子ですねぇ。見事な計画です。
 あの彼が、金蝉の生まれ変わりだと、本能的に察したというところでしょうか】
「天蓬・・・昨日も言ってましたが、金蝉というのは・・・」
【昔、共に魔女に捕らわれた・・・僕の、恋人です。
 彼に比べれば、あの三蔵とやらは背も低いし目付きも悪いですが、間違いありません】
「『彼』って・・・金蝉さん、男性なんですか・・・!?」
【あれ、言ってませんでしたっけ?】
「初耳ですっ」
【じゃあ今言ったということで。だから八戒、貴方も心置きなく彼と幸せにおなりなさい。
 何なら、閨の作法も教えますよ?】
「天蓬っ!!」








 その後、花喃は家を出、代わりに三蔵が小さな家の住人となった。
 かまどの精霊天蓬は、八戒が想い人の生まれ変わりと結ばれたことで魔女の呪いが解け、かまどから解放されたわけだが――

「だからって寝室に来るんじゃねぇ!つーかとっとと昇天しろ!」
【ヤ、ですよ。せっかくあの狭いかまどから出られたんですから、もう少し自由を満喫してからあの世に逝くことにします。だって、今逝ったって、面白くも何ともないじゃないですか】
「こっちは貴様がここにいる事の方が面白くねぇんだ!取り敢えず邪魔すんな!」
【ふぅん、金蝉より下手糞って言われるのが怖いんですか?】
「・・・ざけんなよ、そこまで言うんなら見せてやろうじゃ・・・」
「ちょっ、冗談じゃありませんよ!三蔵と天蓬の馬鹿!!」
「【八戒!!】」

 そんな光景が繰り広げられていたのだった。
 めでたしめでたし・・・?








―了―
あとがき

どこがめでたしめでたしなのか原稿用紙2枚以内で述べてみなさい香月サン(爆)。
当然この話の三蔵様は僧侶ではなく普通?の会社員ですが多分気力で天蓬を追い払うのです(笑)。
花喃姉様が酔い潰れている時点で38ストな皆様には演技だとバレバレでしたよね;
ちなみにこのお話、三蔵様ver.が存在するのです→こちら



読んだらぽちっと↑
一言メッセ・長文感想大歓迎♪