このお方結構好きです(笑)







 ――それを私情というのならば、『情』とは一体何を示すのだろうか。






「――以上が、猪悟能の身辺に関する調査結果となります」
『うむ、ご苦労』
『難しいな。村一つ分の住人に妖怪を千余り、一人の人間が、これ程の数の命を手に掛けた事件というのは、他に類を見まい』
『その身を妖怪へと転じさせた要因も、その強い殺意からくるように思えますね・・・そうではありませんか?』
『ふむ。村人や妖怪への強い殺意故の変貌・・・古き変身譚に見られるような、ヒトの体を捨ててまで貫かんとした情念がひしと伝わってくるようだ。
 玄奘三蔵、そなたはこの件をどう捉える?』
「・・・確かに、数多の人や妖怪を手に掛けるうちに、積もり積もった負の感情がその身を変じさせたとあらば、その殺意の強さは並々ならぬものと思います。
 されど、その殺意は、全て想う者を奪った者達に対するものであり、それを永久に喪った現在、彼の中に他者を害する要素は欠片も見受けられません」
『ふぅむ・・・』
『その代わりといっては何だが、度々自身を傷付ける行為があると報告があるが?』
「はい。想う者のいないこの世に留まり続ける事が、彼の者には相当な苦痛であるらしく、幾度となくそういった行為を・・・」
『そうなのですか・・・聞けば、その想う相手とは長く生き別れていた双生の片割れとのこと、いわば半身を喪った身には、無為に永らえる事こそが何より辛いことなのでしょう・・・』
「左様にございます。よって、死罪に処するは、その者の希望に沿うことになり、本来の罰を与えるという意味を喪うことと相成ってしまうのではないかと・・・」
『成る程、「死」は罰とならず、むしろ「生」こそが罰となる、と?』
「はい。彼の者にとって『死』は逃げでしかないと私は考えます。
 犯した罪を償わせるためには、『生』を与えることこそが最良の手段ではないでしょうか」
『ふむ・・・生きて罪を償わせるということだな』
『しかし、数多の命を奪った者が死罪を免れ、晴れて釈放、となると、いささか不平等と捉えられかねないのでは?』
「では、表向き、法の上で死罪とするのは如何でしょうか」
『法の上といいますと・・・戸籍上の「猪悟能」という存在のみ抹消するということですか?』
「はい。調査によると、幼少期は周囲と和合することが殆どなかったため、彼の者をよく知る人物は、限られた地域に僅かしか存在しません。従って、『猪悟能』は死罪とし、彼の者には別の名を与え、新たな人生を歩ませるのです」
『うむ、成る程』
『ただ、ヒトが妖怪になるという事例は記録にはありませぬ故、今後その者の身に何らかの問題が起き、それにより周囲に害が及ぶ、という心配がないとは言い切れませんが・・・』
『確かに、一夜にして大きな変貌を遂げた存在なれば、今は制御装置が有効であるとはいえ、長期間の観察が必要となるやも知れんな』
「では、当面は私が監督責任者として彼の者を監督下に置き、観察を続けるのは如何かと」
『ふむ、そなたがか?』
『そうですね・・・それが一番良いかも知れませんね・・・』
『他に選択肢がないなら、そうせざるを得まいな』
『ふむ・・・では、猪悟能は判決の日を以って「死」を与え、その後その魂に新たなる「生」を与えることとする。その後は玄奘三蔵、そなたが責任をもって監督下に置き、報告を行うよう』
「――御意」

 その言葉と共に頭を下げると、片膝を床に突いた状態から立ち上がる。

「失礼致します」

 そう言って踵を返そうとした時、

『珍しいな、そなたが斯様(かよう)に面倒な事を自ら買って出るとは』
「・・・・・・」

 それには聞こえなかった振りをし、そのまま謁見の間を辞する。
 毎度鬱陶しい見送りの僧達の視線を背で受け止めつつ、これまた毎度無駄に長い石段を下りながら、盛大に顔を顰めた。

 ――あいつめ。

 思えばあの3神のうち右側にいる『中性』の野郎(意味的に微妙に間違っているが仕方ない)は、数年前、疲弊して長安に辿り着いたばかりの自分に『先代の眼鏡違いと謗られぬよう』などと言ったりと、まあ随分なものの言い方をしてくる。
 回りくどい言い方を嫌う分それが気楽なこともあるが、今回のようにズバリと核心を突かれるのは、余り歓迎出来るものではない。
 ――その『核心』の正体が、自分自身判っていないのだから、特にだ。

(――斯様に面倒な事を)

 思い出して、チッと舌を打つ。
 確かに、誰かを監督したり、観察報告を行ったりなど、どう考えても自分が進んでしたいと考える類の行動ではない。
 いや、それ以前に、罪人の救命嘆願からして、初めてのことではないだろうか。

 ・・・それがどうしたってんだ。奴にとって『死』は逃げでしかない、だから罰として『生』を与える、それだけのことだ。

 そう心の中で独り言つ、それ自体がまた言い訳がましく、更に舌を打ちたくなる。
 そこでかぶりを振り、諸々の考えを追い払った――きりがない。
 と、取り留めのない思考を止めたことで、周囲の変化に初めて気付く。
 日中にも拘らず、随分と暗くなってきた空。
 太陽を隠し、唸りを上げ始めた黒雲。
 湿り気を帯びた風はほんの少し、生暖かい。
 チッ、と舌を打つ――先程とは違う意味で。
 雨が苦手なのは今に始まったことではないが、最近はそれに輪を掛けて忌々しく思う。
 その理由を自身に問うことはせず、代わりに歩く速度を上げた。
 雨に精神(こころ)を狂わせる、碧の瞳の青年の下へ――








―了―
あとがき

えと、こちらのssの中で、既に判決内容が決まっていると書いたものですから、ならその状況を、と考えて突発的に書いてみたのですが(実は時系列的には『Be There〜幕間話』よりも前)。
出来上がったものは半分近くが会話のみ、という読み辛さ満載の代物で申し訳なく(汗)。
しかも三仏神様達、原作でも謁見の間では左程個性の出る喋り方しませんし、難しかった(-_-;)。
取り敢えず注目は向かって右側、『中性』のおネエさん(←・・・)。
作中にも『埋葬編』での内容を盛り込んでいますが、3神の中で一番辛辣、だけど言ってる事は的を射ているという、ある意味では三蔵様にかなり似たところがあるのかも。
この方の方が、三蔵様自身より先にその感情の正体に気付いているような気がします(苦笑)。



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